山川藪文庫
<sansensoubunko>

半減築による豊かさを思考する

期間
2020年7月〜2023年9月

概要

富山県氷見市の中山間地域における自邸の改修プロジェクトです。富山県の住宅は日本一規模が大きい。それは冠婚葬祭を自宅で行う風習や三世代同居によって支え合う生活様式が影響していると言われています。しかし、現代においては生活様式や家族の形態が変化し、それらと生活の器としての住宅との間にギャップが生じています。そこで、「残しながら減らす」半減築という手法を用いることで、現代のライフスタイルに合うように規模を調整しながら、地域に存在する人、もの、できごとやそれらから生まれる風景と多様な関係性を築けるよう建築を再構築しました。また、「学び」を最大化することを追求し、職人に指導を受けながら、できる限り仲間とともに自主施工を行い、施工知識・技術の修得を目指しました。そうした知識と技術の関係者への蓄積は、今後、移住者をサポートする際に役立つ資産になると考えています。さらに、この地域は下水道が整備されていないため、コンポストトイレや傾斜土槽法という排水浄化システムを採用しました。これらの実験的試みが、今後この地域への移住希望者のレファレンスとなることで、この集落の風景を守り続けることにつなげていきたいと思っています。
left photo©Kenta Hasegawa

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半減築とは、空間構成要素を部分的に残しながら減らすことによって、新旧要素の異質性を生かした新たな空間価値を創造する建築手法です。本計画では、解体する際に出てしまう産業廃棄物をできるだけ減らすために、構造補強や断熱工事など空間性能を確保するために撤去しなければいけない部分以外を残し、それらをコンテクストと捉え設計に取り組みました。まず、もともと客間だった1階和室2室の天井や壁の内装材を残しながら、サッシと床を撤去することで、屋外でありながら屋内のような安心感のある空間が生まれました。ここでは、田園風景を眺めならが朝ごはんを食べたり、農作業やDIYをしたり、地域の方を招いてマルシェやコンサートを開催したりすることができます。私たち家族の暮らしが拡張し、地域の人々と緩やかにつながる中間領域として機能します。さらに、2階部分では、空間の上部の天井と垂れ壁を残しながら、下部の壁の撤去・更新をすることで、上部と下部で領域のズレが生じ、多様な拠り所を持つ居場所が生まれました。

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養老律令の雑令に「山川藪沢の利は公私共にせよ」という条文があります。これは、生産活動や日常生活に必要な物資を確保する上で重要な山・川・藪・沢のような地の占有を許さず、皆が自由に用益することができるというものです。移住者である私たち家族がこの地で豊かに暮らしていくためには、私たちの持っている資源やスキルを地域と共有することで、地域の人々との創発的な関係性を築くことが必要であると考えました。そのために、もともと閉鎖的であった住宅の1階部分をできるだけ地域に対して開くことを目指しました。前面道路のある南側に配置されていた水回りは閉鎖性を生む要因の一つであったため北側に移し、南側には妻が所有するたくさんの本を地域と共有するために図書室を設けました。そこには前面道路に向かって開口部を設けることで、仕事や趣味を楽しむ家族の様子が外からも感じられるようになり、地域とのコミュニケーションのきっかけが生まれます。さらに、図書室を、隣接する半屋外の土間空間に対して開放的にすることで、土間空間は地域の人々を迎え入れる縁側のような空間として機能し、図書室へのアクセシビリティを高めます。このように1階を地域に対して開きやすくするために、寝室・キッチン・リビング・ダイニングといったプライバシーが必要な生活空間を2階に集約し、それらが分断しないよう、小さな吹き抜けを介してそれぞれの気配を感じられるように工夫しました。私たち家族と地域の人々がそれぞれの持つ資源を共有することで新たな暮らしの価値が生まれる。私たちが目指す創発的なコミュニティとはそのような場だと考えています。

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この地域は下水道が整備されていない。通常であれば、合併浄化槽を設置するが、ここではトイレをコンポストトイレ、台所やお風呂から出る生活排水の浄化は傾斜土槽法という排水浄化システムを採用しました。コンポストトイレでは、微生物の働きにより排泄物を堆肥に変えることができます。ここで作られた堆肥は畑に活用し、そこで育てた食物を食べることで、資源循環の仕組みを構築します。傾斜土槽法は、四電技術コンサルタントの生地正人氏が考案した、底面に傾斜をつけた薄層容器に土壌を充填し、汚水を浸透流下させて水質浄化を行うシステムです。合併浄化槽に比べ、低コストでエネルギー不要、維持管理も容易である点に特徴があります。これらのシステムは、公共インフラに頼らない資源循環の仕組みであり、持続可能な集落づくりにおいて、ここでの実験が有用なレファレンスとして機能することを目指しています。
(文:籔谷祐介)

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体制図

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