セルフリノベーションの教科書開発プロジェクト

職人の経験的知性の言語アーカイブ

期間
2022年4月~

概要

近年、地方都市において空き家の増加が社会問題となっており、その適切な管理や有効活用に向けた様々な取り組みが全国各地で行われています。富山県も同様の課題を抱えており、特に県内に多く残存する伝統的町家は現行の文化財保護行政ではカバーしきれず、これらの対象を草の根的に保全することで地域性を有する建築文化や景観を継承し、独自性を有する地域づくりにつながると考えられます。私たちはその方法として、コストを削減しながら、個別事情に合わせた空間の実現が可能であるセルフリノベーションに着目しました。セルフリノベーションによる活用をより多く促すためには、コストを最小限に抑えながら、必要な居住性能を獲得するためのセルフリノベーションの手法開発と、それを知識・技術未熟者にわかりやすく伝えるツール開発が必要です。なお、籔谷研究室は高岡市吉久で公民学連携によるまちづくりに取り組んでおり、研究室に所属する学生が伝統的町家を借りて学生シェアハウスとして住んでいます。そこで、専門的な知識や技術を有する職人を講師として招き、伝統的町家を学生シェアハウスとして活用するためのリノベーションをワークショップ形式で実践しています。それを通して、セルフリノベーションにおける実践知を体系的に整理し、伝統的町家をセルフリノベーションすることによる可能性と課題を考察、その成果を分かりやすく知識・技術未熟者に伝える教科書の開発に取り組んでいます。

職人の経験的知性を言語化する施工ワークショップ

本プロジェクトでは、学生が企画・設計・見積り・発注を行い、専門的な知識・技術を有する職人からのレクチャーやアドバイスを受けながら施工するワークショップによってセルフリノベーションに取り組んでいます。実践の中で、様々な道具の使用における注意点やコツなど、職人ならではの経験的知性を学ぶことができます。作業工程やアドバイスなどを随時記録し、参加した学生や職人へのヒアリングを行うことで、経験的知性の言語化に取り組んでいます。

本プロジェクトでの成果や経験的知性は、教科書としてまとめています。この教科書では、図面を用いた改修の設計内容、写真による改修前後の比較、材料・物品リスト、改修の手順・ポイントなどを記載しています。改修の手順・ポイントでは、実際に学生が受けた指導やアドバイスを写真とともに分かりやすく記載することで、ワークショップを追体験できる内容になっています。これらは最終的には書籍化することで、得られたセルフリノベーションの方法論を一般化することを目標にしています。
(文:北島陽貴)

体制図

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