「GEIBUN16」卒業・修了研究制作紹介 No.4 長竹凜
2025.02.12
芸術文化学部芸術文化学科地域キュレーションコース 学部4年 長竹 凜
「現代における銭湯の価値とその役割-富山県一般公衆浴場運営者の視点からの一考察-」と題した卒業研究に取り組み、その論文が高岡市美術館にて展示されています。
法律や行政の支援による「半公共的な施設」としての側面を持ちながらも運営は民間が行う銭湯(一般公衆浴場)。人々の生活と深く関わり合ってきたからこそ、社会の変化とともにその運営スタイルやあり方は変化し続けています。
燃料価格の高騰や利用者の高齢化、家風呂の普及など、決して追い風とは言えない状況の中、それでも銭湯の運営を続ける人々は、どのような思いや価値観を持っているのだろうか。また、どのような要素が銭湯経営を支えているのだろうか。こうした問いを出発点に研究を進め、県内の15軒の一般公衆浴場の運営者の方々にインタビュー調査を実施し、論文を執筆しました。
(論文の概要はページ下部参照)
インタビュー調査の中で、人々の暮らしと密接な商売だからこそ、社会の変化に対応する難しさ、運営に対する課題などもお聞きした一方、銭湯で日々起こるかけがえのない出来事、それらを支える方々の思いについても丁寧にお話ししていただきました。
高岡市美術館にて行っている展示では、論文の成果を示すものでありながら、分析の過程で端的になってしまった運営者の方の生のお言葉をお伝えすることができるよう計画しました。銭湯で何が起こっているのか、それを支える方々はどんな思いを持っているのかということを少しでも知っていただけたら幸いです。
また、研究を進めていく中で、調査の有無に関わらず、たくさんの銭湯に足を運びました。足を伸ばして大きなお風呂に入ることができることも、初めて会ったおばちゃんに言われる「またね」 も「おやすみなさい」も、突然始まる脈絡のない世間話も、論文には記載しきれない銭湯の魅力は本当にたくさんあります。
以前より減ったと言われるものの、誰かと暖かい時間を共有できる場所がまちに沢山存在していることは、地域社会の財産だと思います。あまり銭湯に馴染みのない方も、最近は行ってなかったなという方も、ぜひお近くの銭湯に足を運んでみてほしいです。
最後に、研究を進めるにあたりご協力いただいた浴場運営者の皆様、籔谷先生をはじめとする研究室の皆さん、展示準備にあたってサポートしてくれた皆さん、本当にありがとうございました。
研究の背景:銭湯の存続には 既存施設の継業が鍵となり、運営者の高齢化や経営の負担が課題となる中で、運営者の意識や動機が経営の継続や施設の役割に影響を与えている可能性がある。これまでの研究は利用者視点が中心であり、運営者の意識や行動から、銭湯の持つ社会的資本としての価値を再評価する必要がある。
目的:①銭湯の運営者の運営動機を把握すること②運営者・利用者の行動から、銭湯の現代における価値や役割を確認すること③運営者自身の過去の経験や出来事、施設の立地や設備などの要素からその創出要因を明らかにすること
研究の方法:立地特性・運営体制・設備等の整理をもとに選定した富山県内の銭湯15軒を対象に、半構造化ヒアリング調査 によって運営者の意識や運営動機を分析した。調査データは コーディング を行い「出来事」「経験」「考え・思い」「取り組み」「利用者の声/行動」の5つに分類し、図表で整理を行った。さらに、施設の運営体制・立地・設備特性との関連を検討するため、クラスター分析を行った。
結果/考察:運営者の年代や施設特性ごとの運営動機の傾向、創出価値との関連が明らかになった。また、既往研究では明らかになっていなかった、生活支援や子育て/教育支援としての価値や役割に加え、利用者の居住範囲と創出価値との関連も見られ、これまでのコミュニティの形として提唱されていた、「地縁型」「テーマ型」とは異なる「銭湯型」のコミュニティのあり方が示唆された。
まとめ:本研究では、施設特性/利用客の層による動機や価値の差異が確認された。一方、価値の中には県公衆浴場組合としての取り組みもあり、富山県全体の傾向としても捉えることができ、他地域や銭湯が少ない地域などでの追加検証が必要である。また、本研究の価値分析は 運営者視点に基づいており、利用者の認識や影響については未検討であるため、利用者の意識・行動調査によってその妥当性を調査することも課題としてあげられる。



会期|
2025年2月8日(土)〜 2月16日(日)9:30〜17:00(入館入場は16:30まで)
※2月10日(月)は休館
会場|
第1会場:高岡市美術館